86歳、やっとひとり ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし ~

「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。

#25 お引越し(最後)


【ここまでの展開】

「最期は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを持っていた母がついに行動に出た。気に入った施設も見つかり、いよいよ母の”移住”が始まる。



「搬入/荷ほどき」→「ニトリ」。このセットを二日繰り返すうちに、さすがに私たちも”おつかれモード”に入ってきた。風邪をひいている私は猶更だ。既にあたりは暗い。「本日の業務終了!」としたいところなのだが、さっき買ってきた”リビング用の絨毯”を敷いてしまわないと明日の作業に遅れが出る。


と、ここに来て(疲れもあったのだろう)母がグズりだした。絨毯のサイズがちょっと大きいのは確かだが、柄もイマイチしっくり来ないようだ。さっきまで「絨毯なんて明るめで無難なら何でもいいわよ」とか適当なことを言っていたのが、部屋に置いてみて急にリアルになったらしい。ストライプがうるさいとかガタガタ言っている。ニトリに電話をしたところ、返品・交換には応じてもらえるというが、電話を切ってから替りの絨毯の相談をしている中で私はツイ大きい声を出してしまった。母も言い返す。しばし無意味なやりとりが続いた。


結局いやーな気分のまま、妹と二人で商品交換に出掛けることに。「年寄りは”今がすべて”なんだからね。”あの時ああ言ったじゃない”とか言うのは愚の骨頂だよ。」母や父との同居歴の長い妹は、そのへん良くわかっている。グウの音も出ない私は粛々と本日二度目のニトリを目指す。


閉店間近の店内。返品手続きを待ちながら私はふとヌイグルミのことを思い出した。母が珍しく抱き締めたりなんぞしていたネズミの大きいようなやつ。返品用のカートンに入っていたから片付けられてしまったか!?  慌てて2階の踊り場に駆け上がると、あった!


「ただいまー」つとめて明るい声で部屋に入ると、母もその辺はアッサリしたものでフツーに戻っている。「何入れてるのよ?」私の膨らんだコートの胸に気付いたようだ。「じゃーん!」隠していたヌイグルミの顔を出すと母の目が輝いた。「あー! 買ってきたのー!?」嬉しそうにギューっとしてしばらく離さずにいる。ハリネズミだということで「ハリー君」と名付けて、母のお友達になってもらうことにした。


「『またツマラナイモノ買ってー』とか言うと思ったのに、あんなに喜ぶとはね。」後から妹も驚いたように言う。「お友達が欲しかったんじゃない?」と私。とりあえず口げんか後の”仲直り作戦”は成功したようだ。一人暮らしが寂しくなった時、「ハリー君」が母に寄り添ってくれたら心強い。ニトリ特製「Nウォーム~は温かい~♪」のヌイグルミは心にも肌にも温かいはずだ。