86歳、やっとひとり ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし ~

「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。

#19 イタリア旅行


【ここまでの展開】

「最期は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを持っていた母がついに行動に出た。私妹母の3人は、母の指揮のもと2019GWに「ホーム見学ツアー」を決行し、いきなり「仮申込」まで進む運命の出会いを果たす。


「ホーム入居」に向け身辺の整理に余念がない母を一人残し、私と妹は8月末から11日間の旅行に出た。おひとりさま女史4人の「世界のF1サーキットを巡る旅」。7回目の今回は、フェラーリのお膝元”モンツァサーキット”で「2019/F1イタリアGP観戦」だ。レース観戦を旅のフィナーレに、その他ベネツィア、美食の街モデナ、そしてミラノを回る。


「高齢の親がいるから海外旅行はムリ」という話は多い。親の方から「自分が死んでから行け」と言われたという話も聞いたことがある。我が家の母上はそういうタイプではないが、さすがに二人しかいない子供が揃って10日以上日本を離れるのは不安もあるだろう。同居している妹はしばし報告をためらったりもした。しかし母の方はアッサリしたものだ。


「どうぞどうぞ、海外旅行は早いうちに行った方がいいわよ。体も元気だし、感動の大きさが全然違うから。」
父と母も旅行好きで、リタイヤ後は二人でよく海外に日本に旅をし、その話を夫婦で家族でよくしていた。「自分が行ったところだと、テレビで観たり人の話を聞いてもやっぱり楽しいのよね。だから行かれるうちにどんどん行きなさい。遠いところ、大変なところから先にね。歳をとっちゃうと”しんどさ”が先に立っちゃうから。」


おかげさまで私たちはありがたく旅立つことが出来た。もちろん、以前から契約している「高齢者見守りサービス」の使い方は妹から母にしっかりおさらいしてもらった。


さて、旅行は予想通り”期待を上回る”楽しさだった。ベネツィアでは初のエアビー民泊の充実ぶりに感動し、モデナでは今回最高の美食を体験。そして旅のハイライト、F1レースでは幸運にも応援しているフェラーリチームが勝利!「ホームコースでの9年ぶりの優勝」という感動の瞬間に立ち会うことが出来た。タイガースの優勝を阪神甲子園球場で観るようなものだ。レースもさることながら会場の盛り上がりに興奮した。


そんな私たちの旅先からの電話に母は楽しそうに応える。「新聞で見たけど、フェラーリが優勝したんですって?」 おや、さすがよくご存じ。いつも感じるのだが、母は私や妹の話を通じて自分も旅行やイベントを”疑似体験”し、それをまた楽しみにもしているようだ。いつまでも好奇心を絶やすことが無いそんな性格が、「ホーム行き」さえも期待にかえてしまう”シブトさ”の源泉なのだろう。


こうして、母の移住を前にした娘達の旅行は、私たちにとっても母にとっても、良い事というか「当然のこと」として無事終了した。”楽しむことは善いこと”、我が家のささやかな快楽主義は、いつでも前向きを後押ししてくれる。